まさに決定的瞬間だった光景

H.C.B.



ひと月前まで、東京国立近代美術館で開催されていた、
アンリ・カルティエ・ブレッソン/知られざる全貌
1947年にロバート・キャパらとともに
写真家集団マグナムを設立したメンバーでも
有名な写真家なのは
周知だと思いますが、俗に巷で言われている、「決定的瞬間」という
代名詞を持つアンリ・カルティエ・ブレッソン氏(以下HCBに省略)
の作品はどれも見ごたえがありました。
「知られざる全貌」というテーマの通り、膨大な展示作品を見れば、
HCBの活動されてきたこと全てが理解できるような構成でした。
今や、HCBの写真は古典的作品とも言えるものかもしれません。


そして、2003年祖国パリでの巡回時に逝ってしまったことは、
あらかじめ運命付けられていたのかもしれないと感じてしまった訳で。


作品の構成は以下でした。
1.クラシック1
2.ヨーロッパ 1930年代、メキシコ
3.インド、中国、バリ、インドネシア、中東
4.アメリカ、ソヴィエト、風景
5.クラシック2、ヴィンテージ・プリント、肖像
6.日本
7.ヨーロッパ 1950年代
8.思い出の品
9.デッサン


特に貴重な展示だったのが、彼自身の手で焼付けられた
「ヴィンテージ・プリント」でしたなぁ。
なんせ、撮影直後のプリントされたものですから、数々の「決定的瞬間」
を捉えた作品には、なんだかゾクゾクする気持ちで拝見してました。
モノクロ独特の、グレーの階調にはHCB自身、確固とした考えを持って
いたようで、豊かなグラデーションには目を見張り過ぎてしまった。
やはり、モノクロはプリント如何で印象が違うし、焼付けしてやっと
作品という形になることを改めて実感したねぇ。


また、肖像(ポートレイト)では、HCBのポリシーである、
「モデルの内に秘めた静寂」を捉えるためには、
「被写体のシャツと肌のあいだにカメラをすべり込ませる」
ことが重要だという有名な言葉が非常に耳に残った訳で。
ここで、米の作家ウィリアム・フォークナーの姿を初めて見た。
かつて米文学の授業での「Red Leaves」の作者が
こんなにダンディだったとは!非常に意外でした。


ちなみに、日本には、1965年来日。翌年の日本での写真展に向け、
5カ月に渡って撮影したという。主に人間を撮ったものが多かったが、
禅の風景にも興味を持っていたようです。
HCBならではのカメラ・アイが独創的で非常に興味深かったね。
これは、大いに参考になるべき作品群でしたよ。


日本は、ここ東京国立近代美術館だけで、他に巡回がないのは
残念だと思いますが、これだけ膨大でまとまった作品はそうは見られない
貴重な展示でした。在日フランス人も結構見られましたね。


折しも本日は、米国同時多発テロから丸6年。
事件から、3ヶ月前の6月にちょうど訪米していたので、
今でもビル倒壊の映像が出ると、あの一帯のイメージが鮮明に甦ってきて、
まさに信じられないといった感じです。


そして、もし、HCBがこの世に存命していたら、
どのような「決定的瞬間」を捉えていたことだろう。
あの衝撃的なシーンに対して、シャッターを押すことができたであろうか。
氏でしても、かなり難儀な被写体だったのではないのだろうか。


Foundation Henri Cartier-Bresson


瞬間の記憶


マグナム



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